屍鬼 ネタバレ(小野不由美先生の原作)全開、男女NL同人ファンサイトです。
原作後捏造、二次小説。
鬱で甘いひととき。理由などない、こみあげる情感。しっとり感をめざしました。
屍鬼SS17 ある死の眠り (静信×沙子 ほのかな微微微エロス)。
「 君のために大地は呪われる。
君は永遠に飢えに苦しむ。」
呪いの宣告を詠いながら沙子は、
窓の枠にすっかり乗って、脚を枠の上で伸ばして外を眺めている。
静信は窓枠に浅く腰掛けて、後ろから射す淡い月光で本を読んでいたのだけど、
静信の肩に背中をもたせかけた沙子の髪がページにかぶってしまった。
「 君のために大地は茨で覆われ、
君は土に還れさえしない・・・ 」
沙子は伸ばしていたひざをふいに、窓の向こうへ振り降ろした。
静信はとっさに、寄りかかられていた腕を沙子のウエストにまわして、
沙子が落ちないように支える。
静信の本は床に放られた。
外壁を伝うツタの葉がいくひらか沙子の靴に当たって、はらはらと散り落ちていった。
崖に立つ館の、直下の地上から伸びている針葉樹のてっぺんにさえ、
落ちていく葉はまだ届かない。
沙子は窓の外に足を垂らして、逆向きの静信の胸にまたもたれる。
ご機嫌ななめで、ふてくされていて、絡んであたりたい気分らしい。
原因は何か、静信は一日を振り返っても見当がつかない。
「 どうしたんだい?」
静信は宥めるように問う。
「 すべての星々の終焉まで、君は流浪する。
それほどまでに君を・・・ 」
( あなたの誠意を 苦難でためし尽くす、神の歪んだ独占愛。)
「 うん?」
うながす静信に沙子は答えずに、頬を振ってすり寄せる。
不機嫌で気難しくなって、そして甘える沙子にもう慣れている静信は、
胸を貸したまま、沙子の髪を片腕の指でとかしはじめた。
少し絡まっている束を解いて、流れが交差している束を直して、はねている束を撫でて、
生え際から丁寧に繰り返しとかしてやる。
ウエストに回された静信の腕のシャツを、沙子はつまんではつねっていたけれど、
髪をすかれるのが気持ちよくて、
やがて静信の手と同じリズムで、シャツごしの腕を優しくさする。
腕をさすりながら、目の前の静信の肩口に顔を埋めて、ひとしずくの涙をこぼし、
溢れでる思いを声にはしないで口にだけかたどる。
( 室井さん。)
溢れるのは言葉ではなく、ただひたすらに名前だった。
「 うん?」
声がなくても不思議と呼びかけは静信に届き。
静信は梳いたさらさらの髪を全部集めて、沙子の胸元に流して、仕上げに頭をそっと撫でた。
沙子はわけもない不安が鎮まり、穏やかな感情に染まっていく。
ウエストにまわされていた腕は沙子のひざ裏を抱え、
背中を支えるもう片腕とで抱き上げられた。
もうそろそろ昇る曙光を遮るやわらかな闇へと、連れていかれながら、
沙子は静信の腕ごしに、去り行く部屋を見る。
床におちて開いたままの読みかけの本。
窓枠の端に置かれている眼鏡。
そして、
室井さんと並んでふたりで外を眺めている。
窓の外は豊かな彩りが眩くて美しい。
寝室へ着くまで、運ばれる腕の中で沙子はそんな願望の幻想を見た。
闇の中 ベッドに沈みながら、
「 まだ離れないで 」と声にできなかったのに、
あたたかな優しい腕は、
死に似た深い眠りに落ちるまで寄り添って 沙子を包みこんでいた。
了
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