皆川博子先生の文章世界は好きすぎて、貴い思いで読んでは、ただただ浸るのみ。
感想をうまくはとても書けない。
ざっくりした言葉しか使えません。率直に記すネタバレ感想です。
東京創元社から偶数月発行のミステリーズ!掲載、
双頭のバビロン 第8回。
白雪がきらめき。馬上にまたがる魔王と少年。
その画が、文に浸るあいだつねに脳裏に浮かびます。
ヴァルターとゲオルクが死んだ。
病気や事件を語られても、真相をまだまだミステリアスに思えます。
精神感応自動書記は少なくとも、これで終わるわけがないと思う。
怪しみ(期待)を、一時しまいこんで潜在させて、翻弄されるにまかせます。
「非在の空洞は、存在するもの以上に、存在を明らかにする。」
喪われた大切なもののありよう、でしょうか。
非在の存在ユリアンが、繊細な魂を虚ろにさせてすごす芸術家の家と、
森の様子がたいへん美しい。
ユリアンとツヴァンゲルの友愛はいつも変わらずに、
痛く哀しく、根気よく温かく、とても優しく美しい。
だから
寒そうな情景ほど、暖かく感じました。
憂鬱な悲しみほど、爽やかに感じました。
そしてどんどん現実が展開します。
史実に綿密にきっと基づいていて、境界のわからない虚構の力強さに
読者は押し流されるよう。
皆川博子先生の一文章ぶんの内容で、
他の小説家の方だったら、大作のネタぶんなんじゃないかな、と思うことがよくあります。
史実が多く広く深く濃く、明確に端的に、ザクザク披露される圧巻の
豊かな皆川ワールド。
過敏なユリアンと、柔和なツヴァンゲルが、少年から大人にかわる従軍体験。
皆川先生の戦場描写。リアリズムの按配が素晴らしいです!
映画カメラマン登場。
なるほど!と愛読者の誰もが思ったと思う。
分解されてた壮大な構成が、ひとつにまとまっていくうねりにのみこまれるよう。
続きがものすごく楽しみです。